人文科学系
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人文科学系 人文社会学領域
出産・育児期女性の再就業と地域労働市場
水垣 源太郎 教授段階基礎社会実装育児期の女性の就業継続と再就業および社会ネットワークとサポートについて、複数の自治体との共同研究等により、労働需要側要因・供給側女性の社会経済的要因の両方を対象とする調査を複数行ってきました。
2016年の企業調査によれば福祉医療・運輸・調理接客販売業務で人手が不足している一方、同年の育児期女性への調査によれば、結婚・出産により就業中断した女性は離職前のスキルを活かせず、再就職時には就業を断念するか低熟練のサービス業非正規職に移行する傾向があります。
既存の全国調査によれば、奈良県は通勤時間及び労働時間が全国と比較して長く、性役割分業意識も強く見られます。男性の長時間労働と地域労働市場のミスマッチから女性の就業が抑制され、女性は性役割分業を許容せざるを得なくなっています。
さらにこうした育児期女性の意識はロールモデルとして子どもに世代間伝達されている可能性があり、進学のみならず就職選択においても、地域労働市場の地域的特性が家庭と学校を通じて女性のライフコースに大きな影響を与えるものと考えられます。
(図1・2・3の説明)
奈良市在住の育児期女性1137 人および奈良市内の企業287 事業所に調査を行いました(2016)。労働供給側では自宅の近くで事務職を希望する女性が多いのに対して、労働需要側では運輸職・販売・サービス職・介護職の求人が多く、ミスマッチが起きています。このミスマッチが奈良市の女性有業率が全国的にみて低い理由です。
(図4の説明)
奈良県7 市町在住の育児期女性1000 人に調査を行いました(2013)。都市と農山村で周囲からのサポートのあり方に地域差があることがわかります。
アピールポイント
地域労働市場の需要側・供給側要因の双方を視野に入れて、女性の就業とライフコースの地域的形成メカニズムとその変化を解明している点が本研究の特徴です。
従来、経済学では地域労働市場内部の需給マッチングに焦点が当てられ、社会学では育児期女性や高齢者の就業継続・再就業に与えるライフイベント(結婚・出産)やソーシャル・サポートの効果など労働供給側の外部要因に関する研究が蓄積されてきましたが、本研究ではその双方を視野に入れ、女性のライフコースの規定要因として、需要側要因(地域の産業構成や労働力需要特性等)と供給側要因(性・世代・教育・家族等)の両方を含めた個人選択モデルを用いた調査を行っています。 -
人文科学系 人文社会学領域
ソーシャル・ネットワーク分析による移住者定着メカニズムと移住政策効果検証
水垣 源太郎 教授段階基礎社会実装2019年度奈良女子大学・奈良県共同研究「奈良県南部におけるコミュニティ開発の拠点形成と人材蓄積過程」では、奈良県南部振興計画の一環として設置された移住促進施設の機能評価を行いました。
まず、本施設の訪問者・イベント記録に基づいてネットワーク・データを再現し、それらのレイヤー構造や時系列的変化を分析することにより、移住促進施設がもたらす定住人口・関係人口・交流人口の創出効果、移住者へのファシリテータ効果や施設運営者の活動の展開過程を評価しました。
その結果、施設への実訪問者は奈良県外の出身者が大半を占めており、施設は関係人口・交流人口の創出に重要な役割を果たしていることがわかりました。また施設運営者をめぐるソーシャル・ネットワークの重層性が移住者の定着に貢献していることも計量的に明らかになりました。さらに施設は訪問者の増加とともに「移住促進機能」から「移住定着機能」へと機能を変化させており、この施設のフェーズの変化を発見するための「拠点機能指数」を開発しました。アピールポイント
定住人口のみならず関係人口や交流人口まで含めたソーシャル・ネットワーク分析を行うことにより、それぞれの役割と移住者の定着メカニズムを計量的に解明し、移住政策の評価を行った点が本研究の特徴です。
本研究で開発した手法は、移住政策を担う関係者が自ら実施することにより、現在までの効果検証や、今後の展開に必要なサポートの種類およびその投入タイミングの特定に役立ちます。
本研究では、上記のソーシャル・ネットワーク分析に加えて、地域在住の満15歳以上の男女を対象とした、当地の生活状況や移住に関する質問票調査を実施するとともに、公的統計による広域的な社会経済的地位評価を行いました。こうした多元的な分析手法は、単一ケースのソーシャル・ネットワーク分析の結果を一般的に展開するのに役立つと考えられます。 -
人文科学系 人文社会学領域
近代日本の歴史と純文学
田中 希生 准教授段階基礎社会実装純文学を近代日本の歴史に意義づけるもので、北村透谷や島崎藤村といった明治期の文豪から、小林秀雄・保田與重郎ら戦中の批評家までをとりあつかい、そのなかで、日本の歴史における文学的なものの展開を紐解いていく。
アピールポイント
「政治と文学」という課題は近代日本に特有のものだが、今日、その課題が現実的な意義を帯びることは少なくなっている。つまり歴史になったということだが、それは喪失を意味するわけではない。必然的にこの課題は「歴史と文学」あるいは「政治と歴史」という課題に変奏することができる。
しかし、歴史・文学・政治という異なる学問領域をまたぐものであるために、一般にこの課題の重要性が意識されていながら、研究がなかなか深まらない現状がある。本研究の意義は、この課題に真正面から取り組むことで、近代日本の精神性の一端を解き明かすことにある。 -
人文科学系 言語文化学領域
フォント・デザイン資料としての古活字版活字書体
鈴木 広光 教授段階基礎社会実装仮名は本来、連綿で書かれ伸縮自在であることを本質とするので、文字を特定の規格に分断して押し込める活字とは相性が悪いのですが、江戸初期の古活字版、特に嵯峨本では手書き文字の優美さを見事に活字とその組版に反映しています。
本研究はその優美さの根拠を明らかにするとともに、印字を活字単位に標本化し、フォント・デザインの資料にできるようにしました。既に永原康史、鳥海修両氏に『伊勢物語』の標本を提供し、その成果は「嵯峨本フォント」(フリーフォント)としてWeb 上で公開されています。アピールポイント
嵯峨本は『伊勢物語』の他に謡本『うかひ』(特製本)、『春日明神』(上製本)、また他の古活字版として極初期の『源氏物語』(扁平な活字書体が特徴)、烏丸本『徒然草』の印字標本集を作成し、公開できる体制にあります。高精細なデジタル画像から切り出した印字標本集なのでデザインの基本資料として有効に活用できます。
文字が均等サイズの近代の活字書体は異なる連綿仮名の特質と組版における留意事項等は、本研究の成果をレクチャーしたり、討論したりする形で共同で進めることが可能です。
仮名本来の特質や美的特徴を古い文献資料に探り、これをデジタル・フォントで再現することは、最新技術と歴史的伝統との融合という点でも有意義です。